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林野庁長官賞 厚柱の家〜町屋で暮らすように泊まる〜

制作者
佐賀大学大学院
峰雄大(工学系研究科都市工学専攻)
吉崎暢晃(工学系研究科都市工学専攻)

現状、林業界は戦後植林した木が成長しすぎてしまい
森林の継続的な運用が難しくなっている。
そこで、林業の活性化および太い木材の活用のために
成長しすぎた太い木材を用いて民泊可能な住宅を提案
する。そこで来客者や宿泊者に木材を身近に感じられる
機会を提供することで、国産木材の魅力を感じてもらい、
国産木材利用の活性化、国産木材のブランド化を図る。

建物は「鰻の寝床」上の横長い敷地に熊本市新町特有の
平面を用いることで住宅と宿泊施設の両立を目指し設計
した。太い木材は耐震・耐火性能の確保だけではなく、
公私を分ける意識的な境界としても用いる。

1.林業の抱える課題と展望
 本設計で特に注目した課題は討伐期を迎えた木材である。
 熊本県を含め、全国で課題となっているのが主伐可能な
 林齢に達したにもかかわらず伐採がされていない木材(9
 〜11齢級[50年生前後])が全体の5割前後を占めていること
 である。育ちすぎた木材は害虫の巣となり、林業の循環
 サイクルにも悪影響を及ぼす。そのため至急にこの課題に
 取り組む必要がある。日本全国の動きとは逆に近年、海外
 への木材輸出量は急速に増加している。
 よって本設計では外国人を含めた来客者に太い木材の魅力
 が伝わる住宅を目指した。

2.歴史的まちなみの残る城下町
 対象敷地は熊本県熊本市の新町・古町地区に位置する「うなぎ
 の寝床」状の細長い敷地である。この地域は熊本城の城下町と
 して栄えた歴史的まちなみが残っている。職人や商人が居を構
 えていた街区内は東西に延びた間口が三間半程度しかない「う
 なぎの寝床」状の細長い敷地から構成されている。熊本地震の
 際には多くの建物が被害を受け現在もその爪痕は見られた。

3.家族構成
 会社員の父と主婦の母、学生の息子の3人暮らしに加え、別居
 中の子供が3組という家庭を設定した。現代、親と疎遠となる
 子供が多い。それは夫婦や1家族のみが住む家に大人数が集まる
 ことに窮屈さやストレスを感じることに一因があるのではないだ
 ろうか。そこで住宅を民泊を含め柔軟に使い分けられるように
 設計を行った。民泊新法の営業日数も家族の帰省と組み合わせる
 ことで不自由を感じずに済む。
 父(60) 会社員  母(60) 主婦 民泊管理者     三男(23) 学生
 
    長男(30) 会社員 既婚 別居中
 長男の嫁(31) パート
 長男の息子(6)
 長男の娘(3)

 長女(27) 主婦 既婚 別居中
 長女の婿(29) 会社員
 長女の娘(3)
 長女の娘(0)

 次男(25) 会社員 未婚 別居中

4.設計手法
 建物外観は「熊本新町・古町まちなみガイドライン」に従い平入り
 の縦長いものとした。縦長の間取りは太い柱と梁によって細長さ特
 有の「ぬけ」を残しつつ空間的に違いを持たせた。存在感のある柱
 や梁を通して木材の魅力を知ってもらうため、床は上下させ天井に
 は吹き抜けを設けた。これによって木材はいろいろな距離から感じ
 ることができる。

5.配置計画
 配置計画は日本の町屋形式を元に設計した。間口に面し店舗を兼ね
 た母屋と中庭を挟んだ敷地奥の蔵をそれぞれ民泊棟と住宅棟とした。
 1Fはどちらの棟も物理的な壁は用いず、敷地長辺方向での視線の抜け
 を確保した。視線の抜けを確保することで狭い間口を広く感じさせ、
 管理者である母も来客を感知しやすくなる。また、住宅棟の玄関は母
 とそれ以外の2つの動線を持つ。母用動線の先にはパントリーや台所、
 洗面所、リネン室などが集まっているため家事に加え民泊の管理も行う
 母の負担を軽減する。交流の場となる中庭は敷地の中心に配置した。
 それぞれの最低限のプライバシー確保のため民泊棟は軒を低くし、住宅
 棟には格子戸を設置した。
 格子戸・・・目隠し機能と外気通風の確保の役割を持つ格子戸。軸の
       ずれた格子により目隠しの度合いを調節できる。

6.失われる伝統の継承
 合理化の進む建築業界では伝統的工法や土葺き屋根など日本に合わせ培
 われたかつての技術が失われようとしている。本設計でそれらを用いる
 ことで職人間での技術の継承にも役立つ。また、多くの人が手軽に訪れ
 られる住宅を作ることで施工を行った職人以外へも技術の頒布が期待で
 きる。

7.短冊状の敷地に合わせた構造
 短冊状の敷地は間口に対し長辺方向は建物のスパンが長く地震の揺れに
 強い。それに反し間口短辺方向はスパンが短く振動に弱いため垂直方向
 に比べ揺れやすく地震に弱い。そこで短辺方向は長辺に比べ太い柱を用
 いて短辺方向の揺れを抑えた。また、太い躯体を生かし屋根は質量の大
 きな土葺き屋根とすることで揺れの振幅を小さくした。
 ・仕口継手
  大いれほぞ差し→他の仕口に比べて曲げに強く、柱・梁の仕口に用いる。
  腰掛け鎌継ぎ→引張力に強いため、土台、胴差といった横架材に適用する。
 ・石場建て
  礎石の上に直接柱を立てる。床下の風通しを良くすることで、メンテナ
  ンスの容易化、建物の長寿命化を図る。
 ・貫構法
  変形性能を高くすることで、揺れに対して柔軟に対応。完全倒壊を防ぐ。
  右に在来工法と伝統構法における地震動の挙動を示す。
  伝統的構法:接合部に金物を使用していないため、建物全体が少し歪む
        ことで自身のエネルギーを吸収する。
  在来工法 :建物が地震力に耐えることで倒壊を防ぐ。建物が変形する
        ことがないため、地盤からの浮き上がり力が発生する。

住宅と宿泊業の両立
2018年6月15日に住宅宿泊事業法、通称「民泊新法」が施行された。
この民泊新法によって営業大日数上限などの制限はあるが、旅館業
法などの厳しい制約を受けずに住宅のまま宿泊業を営むことが可能
となった。
民泊新法の中には文化の交流を目的とした「家主住居型」と空き家
の解消を目的とした「家主不在型」の2パターンの民泊が想定されて
いる。本提案では母を管理人とした「家主住居型」を用いて、日本
家屋での居住体験や国産木材のブランド化をおこなっていく。
 

  旅館業法 民泊条例 民泊新法
  簡易宿泊所 大阪市 家主住居型
行政への申告 許可 認定 届出
営業日数上限 なし なし 180日
宿泊日数上限 なし 2泊3日以上 なし
建物用途 ホテル・旅館 住宅・その他 住宅・その他
居室の床面積 33㎡ なし なし


新町・古町のまちなみ
新町・古町地区では平入りの建物が屋根レベルを上下させながら
スカイラインを形づくっている。屋根面の一つ一つは、土葺き桟
瓦の黒と漆喰壁の白が特徴的である。
建物内部は全国的に見られる町家のつくりを元としているが台所
を兼ねない土間、半畳ほどの通り庭空間はこの地域独自のもので
ある。熊本市では「熊本市新町・古町地区の城下町の風情を感じ
られる町並みづくり事業」と題してまちなみの保存修景を推奨し
ている。女性制度も設けられており、本設計ではここで設定され
た「まちなみガイドライン」も参考に助成を受けられるようにし
た。

立体的にみせるファサード
建物のファサードは新町・古町地区の「まちなみガイドライン」に
したがって平入りとした。また、強い構造体を生かし。屋根は土葺
き瓦屋根とした。壁の白漆喰と瓦に加え、真壁の太い木材、入り口
扉と二階の格子によって正面からも立体感を感じられる。太い木材
をファサードからも感じられるよう構造体部分に加え軒下の柱でも
太い木材を使用した。
入り口からは町家に見られる通り庭によって中庭まで視線が通り間
口の狭さを奥行きによってカバーする。

建物の躯体や床、屋根はあらわし無垢材を用いる。
あらわし無垢材を用いることで目で見て肌で木材の魅力を感じるこ
とができる。またこれにより調湿性、断熱性も向上する。

細長い敷地で採光を最高を確保するために中庭を設けた。中庭はゲ
ストと家族が共有する空間であるため交流の場となる。中庭にも骨
組みだけの屋根をかけ、室外でも木材の魅力を演出する。

住宅棟のリビングからは中庭、民泊棟を通して、通りからの来客を
見られる。窓の内側には木製の格子戸が設置されている。これによ
って必要に応じて視線を遮ることができる。

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