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瓦屋根優秀賞 柳町拡大作戦ー趣ある街並みを伝えるー

制作者
佐賀県立産業技術学院
世戸 幸子(建築技術・設計科)

佐賀県佐賀市柳町地区には、歴史的建築物が多く現存している。
趣ある街並みを守るため、地区内の建物には様々なとりきめがある。
そんな土地に家を建てる。
そんな土地だからこそ家を建てる。
制限を受けながら設計して感じた問題。その問題を、現代人のライフスタイル
にあわせて改善することで、趣ある街並みを伝播するモデルの提案を行う。
初めは一軒からの取り組みだが、柳町のさらなる発展・拡大はここからはじまる。

⒈建築予定地
 柳町は、平成23年に景観法に基づき、長崎街道・柳町景観形成地区に指定された。
 町一帯が長崎街道に面し、江戸時代から佐賀藩の城下町として親しまれた。
 また、佐賀江川の船運の発達に伴いクリーク(水路)が作られ、物資や人々が行き
 交う商業の中心でもあった。明治・大正期には、九州の5大銀行に数えられた旧古賀
 銀行により、金融業も発展した。現在は、行政や住民の取り組みにより、佐賀の往時
 を偲ばれる歴史的建造物が残されている。
 建築予定地は、柳町地区の隣の”松原地区”の一角。柳町中心部からほど近く、柳町の
 路地から垣間見える場所に位置する。景観形成地区外ではあるが、立地の重要性から、
 景観に考慮した設計を進めた。

⒉家族構成
 父:47歳/高校教師  
 妻:47歳/主婦
 長男:13歳/中学1年生
 長女:10歳/小学4年生
 祖母:80歳/無職
 父・母・長男・長女の4人でマンション暮らしをしていたが、子供達の成長に伴う部屋・
 収納スペースの確保と、祖母との同居を機に、家を建てることに。施主である父は、社会
 の先生をしており、本の収集が趣味。柳町の街並みの保存にも関心をもって、建築予定地
 に選定している。

⒊当初のプラン
 設計当初は、長方形に近い切り妻の住宅を計画した。玄関庇の設置や黒い瓦屋根、外壁に
 は焼杉と漆喰を用いることで、景観にも配慮した。また、住宅を道路から後退させ、駐車
 場や多目的に利用できるスペースの確保を行った。
 設計を進めながら、柳町の歴史を調べ、柳町の景観形成基準を知り、歴史たる街並みを体感
 した。現時点では決して広いとは言えない柳町景観形成地区。今後、地域の発展を考えた時、
 この場所の整備は不可欠である。現地に足を運ぶことで、建設予定地の立地の重要性を改め
 て考えさせられた。
 また、松原地区の建設予定地周辺も歩くことで、駐車場の多さに気が付いたり、建物や造作
 差から、住人の意識のばらつきを読み取ることができた。そんな土地だから”こそ”何ができる
 か。そんな想いを抱き、プランの再考を行った。

⒋基準に合わせたプラン変更
 柳町の景観を伝播していけるよう、景観形成基準に沿ってプランを見直した。
 ①建物形状の変更
  景観形成基準では、”通りに面する壁面は、伝統的なまちなみ壁面線”(道路境界線から1m前後)
  を考慮して建てる”とある。壁面線に沿わせるべく、建物を道路側に寄せて配置した。また、
  建物の形状を長方形からL字に変更し駐車スペースを確保した。
 ②道路正面部分の用途変更
  建物を壁面線に沿わせることで、”道路正面の開口部は掃出とする”という新たな基準が適用
  された。お客さんに気軽に入ってもらえるようにという商家文化ではあるが、住宅の玄関と
  しては最適ではない。家族用の玄関は別途設けることとし、道路正面は地域に開いたスペー
  ストして活用する。
 ③屋根・外壁・建具等の変更
  ●屋根勾配を4.5寸購買に変更(4.5寸〜5寸の基準におさめた)
  ●外壁は真壁造りの漆喰塗り
  ●下屋庇の設置
  ●伝統的手法が用いられた、腕木門と屋根付板塀の設置
  ●通りから見える建具は、木製、ガラス戸引き違いまたは引き込みを使用

⒌新しい外構の提案
 建物と同様に外構にも"塀はまちなみ壁面線を維持するように立て、屋根付板塀等の伝統的手法
 に類するもので高さ1.8m程度、門は腕木門やそれに類するもの”という基準がある。これに関し
 ては、下記問題点が挙げられた。
 ◇問題点
  車社会では、道路に面した駐車場は必須。
  それに伴う壁面線を守る外構基準が高すぎる。
    ↓
  ■景観形成地区内でも、塀や門の設置がない建物が見られる
  ■柳町が車社会に対応できないために松原に駐車場が増えた可能性がある
  ■駐車場が多いと、柳町の連続性のある街並みを広げていきにくい
 ◇網代建具ー新たな景観形成の手段ー
  問題点の解消のため、私は「網代建具」を提案する。車社会に適応し、趣のある街並みを伝え
  る、新たな景観形成の手段として活用する。
  高さ1.8mの塀は残しながら、駐車スペースの前に抜けのある木製の引き戸を設置する。引き戸
  により、塀の全体量を減らし、開放感も得られる。耐水性を考え佐賀県産の檜を使用する。
  ■車社会への適応
    網代建具の活用で、車を敷地内に組み込み生活しやすくなると同時に、外部駐車場の増加を
    抑え、駐車場の点在による街並みの連続性欠如の抑制の一助とする。

  ■趣ある街並みを伝える
    引き戸に用いた菱形のモチーフは、佐賀の伝統工芸品・佐賀錦に用いられる、私たち"佐賀ん
    もん"にとってなじみの深い模様である。さがにしきは病に伏した際に天井の網代組に心を打
    たれた鹿島鍋島藩主夫人が、もっと身近に網代の美しさを楽しみたいと考案した織物だ。
    松原地区には、佐賀錦振興協議会の活動拠点となっている旧福田家があり、縁も深い。人々
    の目に触れる場所に、この伝統ある網代模様を用いることで、郷土愛を育み、伝えていくきっ
    かけになればとの思いを込めた。
  ■景観基準への追加
    景観基準を守り、網代建具を用いた住宅を発信していくことで、これからの柳町・松原地区の
    発展・街並みの拡大に貢献したい。
    また、この網代模様の建具を、柳町・松原地区の景観を守る基準の1つとすることを提案する。
         初めはこの一軒からの取り組みだが、10年後、20年後、住民一人一人による”柳町拡大作戦”が
    進められていくことを願う。

平面計画
①道路正面には糸屋格子による目隠し・採光と、収納式の腰掛けを設置。一息つける軒先を提供する。
②掃出し窓を生かし地域の人や家族が利用できるパブリックスペースに。図書室・学習室の利用がメイン。
③朝方の祖母の部屋は南東に設置。トイレへ導線は、足腰のためあえて距離をとった。
④和室は、客間としても祖母の部屋の延長としても利用できる。パブリックスペースとの緩衝空間。
⑤LDKは勾配天井で開放的。熱を逃がす高窓と、子供部屋に熱を送る高窓がある。
⑥夫婦寝室には、柳町の八坂神社の大楠を望む窓を設置。奥には書斎スペース。
⑦ファミリークローゼットは回遊可能。虫籠窓により採光・通風を確保した。
⑧子供部屋は間仕切りで2つに分けており、1つの部屋として使うことも出来る。
・敷地面積 298.9㎡    ・1階床面積  110.2㎡
・建築面積 110.2㎡               ・2階床面積    62.6㎡
・建蔽率  36.9%                 ・延べ床面積   172.8㎡
・容積率  57.8%
 

 

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