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林野庁長官賞 溢れ出る八畳間

制作者
日本大学大学院
佐藤太輝

【コンセプト・PRポイント】
■宮城県石巻市雄勝町
本住宅は、東日本大震災の被災地である、宮城県石巻市雄勝町に計画する。リアス式海岸の織り成す美しい海と雄大な山々を持つ雄勝町では、先の震災による津波で多くの住居が失われた。
■雄勝町の伝統的住宅構成
それらの住宅は、八畳間の室が二行三列になって構成された雄勝地域の伝統的な構成から成っている。1700年頃より、東北地方における民家の源流とされる広間型の構成から雄勝独自の発展を遂げたこの空間には、そこに住まう人々の生活のリズムが息衝いていた。八畳間と言う現代のnLDKでは個室ともリビングとも定義しがたい曖昧な広さを、ふるまによって自由に間仕切りながら暮らしていた。
■現在の問題点
しかしながら、現代における民家の使われ方はライフスタイルが西洋化するに伴って、床座からイス座に、布団からベッドに、ちゃぶ台からテーブルにといったように固定された家具を元にしており、ふすまや障子など可変性に富む建具で空間をコントロールすることが難しくなった。
加えて雄勝では過疎・高齢化による限界集落の問題が進んでいる。高齢者を孤立させないためにも、そこで暮らしている様子や活動などが分かる開かれた住まい方が求められているのではないだろうか。
■設計手法
そこで従来の民家の、外壁は固定壁で閉じ内部は可動壁(ふすま)で自由になっている関係を逆転することを試みた。地域の伝統的な八畳間の空間構成を残しつつ、外壁を自由に開くことのできる可動壁、内部を固定壁で仕切る。
今までは固定壁に沿って家具を置くことで、結果的に家具に囲まれ生活しなければ成らなかったが、逆にすることで外に向かって生活でき、開かれた暮らしができる。
■緩やかに連続する八畳間
固定壁はnLDKのように○○のための部屋として完全に分け隔てるのでなく、区切られた部屋のような、連続した大きな部屋のような、曖昧な区切り方をすることでふすまで空間を使い分けていたような自由な使い方が可能になっている。また、曖昧に区切ってあることで家の何処にいても家族の生活する音や気配を感じることができる。
■可動する断熱層と日射・視線制御層
外壁である可動壁は環境に対する二つの層で構成する。外部から見た一つ目の層は日射・視線制御のための粗・密の2タイプがある格子ルーバーと断熱性の高い真空ガラスが交互に並びながら可動することで、程よい環境を調節できる仕掛けになっている。二つ目の層は光を透過し断熱補強のためのハニカムサームスクリーンで二重の断熱をする。夏場は断熱層を開いて涼風を取り入れ、冬場は内側で断熱して出来た熱の滑りを取り入れる。この縁側は環境装置でもあり、日常のバッファーゾーンでもある。
■溢れ出る八畳間
可動出来る層が二重に建築を廻っていることで、気候が悪い日にはコンパクトに、気持ちのいい日は大胆に空間を大きく使うことができる。住まい手の活動が外まで広がってゆくことで、震災から立ち直ろうとしている雄勝の街の風景はにぎやかになり、かつて当たり前のようにあった人と人との繋がりを取り戻せる八畳間は街に溢れ出る。
■(A)
本計画地である雄勝では津波被害にあった住戸の高台移転計画が数十戸の小さな集落で進行している。浸水域は20mにもおよびリアス式海岸の浜で平坦な土地の確保が難しいため山を削って造成する必要がある。雄勝の森は良好な杉材が取れ、造成計画でも多くの杉を伐採するのでそれらを活用し、本住宅の建材として使用する。構造材は105mmの角材の杉材を用いた。
■(B)
総額:1,640万円 木材金額:950万円(高台移転に伴う伐採木材を使用)
■(C)
この度の東日本大震災には復興予算約18兆円という莫大な金額がつぎ込まれており、日本が抱える当面の大きな社会問題である。東北に限るとはいえ、良質な木材の産地である東北の森林が高台造成等で次々と切り倒されている。その土地の木をその土地の伝統的な構法・構成で作り、文化を継承してゆくことこそが、そこに住まう人々は自分たちの森を守り育んでゆくこととに繋がるのではないだろうか。
■家族構成
父:34歳 母:28歳 女の子:8歳 男の子:5歳
■建築面積:156㎡
■延床面積:115㎡

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